私が入社して間もない頃、少し変わったご依頼がありました。

ご依頼主は、ご近所にお住まいの方で、お品物も直接工房に持って来られました。

お品物は長い間、大事に愛用されてきたのが一目でわかる、座椅子。見た所、傷などは無い様子でした。

ご要望は”背もたれに透かし窓を作って欲しい”というものでした。タオル素材のような生地のため、冬はいいけど夏は暑いとの事。

ずっと座っていると暑いので背中部分に窓があればと思い、同じような物も探してみたそうですが、やはり使い慣れた物が良かったそうです。

出来るだけご要望に沿うように作業開始です。

背もたれの布地を一度切り開けて、骨組みになる木板をとり出し、そこに窓となる穴を開けたらクッション素材と布地を戻すといった作業。

言葉にすると簡単ですが、手間と時間とアイデアの要る作業です。

お返しした際のご依頼主様の反応は大喜びで、後日「もう一脚もお願い」と持ってこられた程でした。

当時、まだできることの少なかった私にとっては、「こんな物もできるんだ」という驚きがありました。

買い換えるのは簡単ですが、座り心地や角度の調整など使い慣れた感覚は取り替えがききません。

大事にされている物の、生まれ変わるお手伝いができるよう努力していきたいです。

（社員M）